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各疾患について
脳腫瘍
主な腫瘍疾患
 
星細胞系腫瘍(せいさいぼうけいしゅよう)
■病因・病態

脳に発生する悪性腫瘍である「神経膠腫」(グリオーマ)の代表的な疾患、「星細胞系腫瘍」は、脳の主要な構成細胞である「星細胞」から発生する腫瘍です。星細胞系腫瘍は、原発性脳腫瘍(脳内で発生し、他の臓器からの転移ではない腫瘍)の20%強を占めます。
一般的な癌との大きな違いは,星細胞系腫瘍は、脳から他の臓器へ転移しないことです。

星細胞系腫瘍は、治療の方法と予後との関連で、「星細胞腫」「退形成性星細胞腫」「膠芽腫」の三つに分類されます。WHO分類による悪性度では、星細胞腫はグレード2、退形成性星細胞腫はグレード3、膠芽腫がグレード4で、膠芽腫が最も悪性となります。

星細胞系腫瘍は、脳のどこからでも発生してどの年齢にもみられますが、成人では大脳半球に多く、幼小児では脳幹部に出ることがあります。星細胞系腫瘍は浸潤性を持ち、周囲の脳にしみ込むように発育します。片方の半球にとどまらず,反対側の半球や脳幹部にまで広範に広がることも多くなっています。脳室の壁に沿って浸潤したり、くも膜下腔へ播種(ばらまかれるように広がる)したりすることもあります。

浸潤性を持つ星細胞系腫瘍の場合、腫瘍と正常な細胞との境界が明確でないため、患部の完全な摘出が難しく、治癒が困難となっています。ただし、星細胞系腫瘍の中には浸潤して広がる性質をあまり持たない限局性の腫瘍があります。このタイプの腫瘍は、患部が手術できちんと取れて、治癒することができます。

膠芽腫は最も悪性度の高い星細胞腫ですが、成人とくに高齢者の大脳半球に好発します。
小児での膠芽腫の発生頻度は成人に比べてかなり低いのですが、小児の脳幹部神経膠腫には膠芽腫の像をしばしば認めます。

■症状
星細胞系腫瘍の症状としては、まず局所症状と呼ばれるものがあります。これは、腫瘍によって脳の一部が壊されたり脳が圧迫されたりしたために発生する運動麻痺、症候性てんかん、感覚障害、失語症、視野障害、知能や記憶力の低下、性格変化などです。
また、腫瘍が大きくなると、頭蓋内圧亢進症状が出ます。これは、頭痛、吐き気、嘔吐、意識障害などです。
■診断・検査
診断にはMRI(磁気共鳴画像検査)を使います。
治療はグレードによって違いますが、外科手術による腫瘍の摘出に加えて、手術後の補助療法として放射線治療や化学療法を用いることがあります。特に、グレード3、グレード4の腫瘍については、放射線治療は欠かせません。
■予後
星細胞系腫瘍の予後(治療後の経過)は、グレード3の患者さんで手術後3年の時点での生存率は60%程度、グレード4では20%程度とされています。10年生存率は、もっと低くなります。
乏突起膠細胞系腫瘍(ぼうとっきこうさいぼうけいしゅよう)
■病因・病態

「乏突起膠腫」(oligodendroglioma、略称:オリゴ)とは、脳に発生する悪性腫瘍である「神経膠腫」(グリオーマ)と呼ばれる脳腫瘍の一種です。脳を作る細胞(乏突起膠細胞)から発生すると考えられています。遺伝子の異常が病因であることがわかってきました。

乏突起膠腫は、主として成人の大脳から発生する腫瘍です。浸潤性を持ち、脳にしみ込むように発育するので正常細胞との境界が不明確であり、大きくなると摘出できなくなります。

乏突起膠腫の悪性度は、グレード2と3があります。悪性度の高いものを「退形成性乏突起膠腫」(たいけいせいせいぼうとっきこうしゅ)と呼び、グレード3です。ただ、どのようなオリゴでも大きくなって脳を広範に侵せば命が危ない疾患です。細胞の成熟度の高い、すなわち、「分化度」の高いグレード2の腫瘍は20-30年もかかってゆっくり大きくなって症状を出すものもあります。種類によっては、1ヶ月程度で大きく広がってしまうものもあるため、予後は千差万別です。

■症状
症候性てんかん(けいれん発作)によって発症することが多くなっています。また、腫瘍の発生した大脳の部位により、様々な神経症状が表れます。頭痛や嘔吐などの強い頭蓋内圧亢進症状は、あまり見られません。
■診断・検査
診断には、CT検査(コンピュータ断層撮影検査)、またはMRI(磁気共鳴映像検査)を行います。CT検査で「石灰化」(石灰の固まりが白く映る)が大きく見られる腫瘍は、良性度が高いと判断されます。
■手術・治療

治療については、患者さんの病歴、年齢、画像所見を見て慎重に治療方針が立てられます。外科手術による腫瘍部分の摘出を行うことが、治癒の確率を高めますが、浸潤性を持つため完全摘出は難しいです。ただし、星細胞系腫瘍よりも浸潤性は低いため、腫瘍の摘出率は高くなっています。高分化型の場合は、完全摘出が可能な場合があります。

完全摘出ができない場合、補助治療として放射線治療や化学療法を行います。
化学療法は有効で、腫瘍が小さくなることが多いです。しかし、化学療法だけで治癒することはまれで、腫瘍が完全に消えることはほとんどありません。

■予後
乏突起膠腫の予後は、千差万別ながら比較的良好な方です。5年生存率は、80%強となっています。悪性度の高い「退形成性乏突起膠腫」の場合の5年生存率は40%程度に下がります。
脳室上衣腫(のうしつじょういしゅ)
■病因・病態
「脳室上衣腫」は脳室の壁を作る上衣細胞が腫瘍化した比較的珍しい腫瘍です。成人よりも小児に多く発生します。第4脳室の周囲の壁に発生することが多いのですが、成人では側脳室や大脳の内部にできるものもあります。良性のものは手術で全部とれれば治りますが、症例のうち、3分の1くらいは悪性度が高い退形成性上衣腫です。
■症状
脳室の中にできる上衣腫は、髄液の流れ道を塞いでしまうので頭の中に水がたまって(水頭症)、頭蓋内圧亢進症状としての頭痛や嘔吐を起こします。テント上の大脳の中にできる上衣腫は、麻痺などの症状が現れます。
■診断・検査
診断には、CT検査(コンピュータ断層撮影検査)、またはMRI(磁気共鳴映像検査)を行います。
■手術・治療
治療は、手術でできる限りとること(完全摘出)を第一目標にします。良性の上衣腫の場合、手術で全摘出できれば治癒できます。多くの場合、手術後には腫瘍のあった部分に放射線治療をします。化学療法には抵抗性のある腫瘍なので、現時点で認められた有効な化学療法はありません。
■予後
上衣腫の5年生存率は、およそ70%、退形成性上衣腫の場合で約40%となっています。ただ、幼児の予後はあまりよくありません。全摘出ができた場合の予後は比較的良好です。
頭蓋咽頭腫
■病因・病態

「頭蓋咽頭腫」(craniopharyngioma、略称:クラニオ)は、病態学的には良性の腫瘍ですし、転移したりはしません。したがって、手術で取れてしまえば治るのですが手術が難しいことが最大の特徴です。子供にも成人にも発生する腫瘍です。

腫瘍は、脳の中心の視床下部と下垂体というところに発生してくっつきます。視床下部に浸潤しているものもあり、小さなものでは1cmくらいから大きなものでは数cmになるものまであります。大きくなると第3脳室、鞍上部、トルコ鞍から周囲に広がります。

■症状
頭蓋咽頭腫の症状としては、次のようなものがあります。
  • おしっこがたくさんでる尿崩症
  • 身長が伸びなくなる成長ホルモン欠損症(子供の場合)
  • だんだんと眼が見づらくなる視野欠損
  • 元気がなくなったり疲れやすい下垂体前葉ホルモンの不足
  • 頭の中に水がたまる水頭症による頭痛と吐き気
  • 意識障害や痴呆(認知症)、麻痺
■診断・検査
MRIでの検査、眼科での視野検査,内分泌内科か小児科での下垂体ホルモン検査が必要です。
■手術・治療
外科手術による腫瘍部分の摘出を行うのが基本ですが、高度な手術であり、体の小さい子供の場合、特に困難な手術です。
■予後・合併症

腫瘍の摘出のため、視床下部から下垂体の一部(特に下垂体柄)が損傷すると、おしっこがたくさん出てしまう尿崩症がでたり、またもともとあった尿崩症が悪化します。また、同じ場所の損傷で、下垂体前葉ホルモンの障害が出ます。前葉ホルモンには、成長ホルモン、性腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質ホルモンなどがありますが、足りない場合は薬を飲んだり定期的に注射して補っていかなければ普通の生活はできません。

完全な下垂体前葉機能の消失では肥満が大きな問題になります。視床下部の大きな損傷では、意識障害がでます。視神経、視神経交差、視索が、頭蓋咽頭腫にくっついている場合には、これらを損傷することにより、視力の低下や視野の欠損が出てみづらくなります。
手術の手段にもよりますが、前頭葉の損傷では高次脳機能障害(とくに知能の低下、性格の変化)などが残る可能性があります。脳の損傷があると、術後に症候性てんかんというけいれん発作が起こることがあります。

胚細胞腫瘍
■病因・病態
「胚細胞腫瘍」は、原生殖細胞(primordial germ cells)から発生する腫瘍であると考えられていいます。主に小児期と青年期(患者さんの平均年齢は15歳位)に、視床下部、下垂体、松果体にできる腫瘍です。胚細胞腫瘍の主な疾患としては、胚種(ジャーミノーマ)、悪性リンパ腫(中枢神経原発リンパ腫)、転移性脳腫瘍などがあります。
■症状
症状は、腫瘍の発生部位によって異なりますが、松果体にできる胚細胞腫瘍は、閉塞性水頭症を生じやすく、頭痛、嘔吐、軽度の意識障害が発生します。視床下部、下垂体にできる腫瘍は、大量の飲水、頻繁な尿意(中枢性尿崩症)を起こします。重症になると、ナトリウム調節障害、意識障害、知能低下などが見られます。
■診断・検査
診断には、MRI利用します。CT検査を行うこともあります。また、血清と髄液中のAFP(alpha-feto protein)とHCG-beta (human chorionic gonadotoropin-beta subunit)の測定によって悪性度を判定することができます。また、内分泌(ホルモン)障害を持つ患者さんが多いので内分泌の専門家に診てもらう必要があります。
■手術・治療

治療においては、胚細胞腫瘍の種類に応じて適切な治療方針が決定されます。
発生部位が小児の脳深部にある視床下部や松果体部であることが多いため、手術による患部の全摘出がしばしば困難です。しかし、おおむね放射線・化学療法が有効な腫瘍であるため、外科手術に加えて、こうした補助療法の重要性が高くなっています。

放射線治療は病態組織によって全く違ってきます。播種(腫瘍からはがれた小さな癌細胞が周囲にばらまかれること)しやすい腫瘍では、全部の脳と脊髄に放射線治療をしなければならないことがあります。
日本での化学療法(制がん剤)はICE療法というのが最も使用されます。

■予後・合併症
胚細胞腫瘍の5年生存率は50%弱です。初回治療に成功しても再発の可能性が高いです。
強力な放射線・化学療法を行わざるを得ない場合には後遺症が発生することがあります。放射線療法に起因する「遅発性脳神経障害」や、化学療法による「原発性腺機能低下症」などです。


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