特色ある治療

聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)

聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)とは

聴神経腫瘍は、前庭神経(平衡感覚をつかさどる神経)から発生する良性の腫瘍で、「神経鞘腫」の中でも最も頻度の高いタイプです。脳腫瘍全体の約10%を占める比較的多い腫瘍で、片側の聴力低下や耳鳴りをきっかけに見つかることが多く、ふらつきやめまい、顔の痛み(三叉神経への影響)を伴うこともあります。

腫瘍の特徴とリスク

この腫瘍は、聴神経(蝸牛神経)や顔面神経と非常に近い位置で発育するため、摘出の際は神経機能の温存が重要です。特に内耳道内は非常に狭いトンネル構造で、腫瘍と複数の神経が密接して走行しており、繊細で高度な手術技術が求められます。
腫瘍が進行すると、脳幹を圧迫するようになり、命に関わるケースもあるため、状態に応じた適切な治療判断が重要です。

主な症状

• 片側の聴力低下
• 耳鳴り
• ふらつき・平衡感覚障害
• 三叉神経痛(顔のしびれや痛み)
• 顔面神経麻痺(重度の場合)

治療の選択肢

腫瘍の大きさ、進行の程度、症状の強さなどによって治療方針が異なります。以下の3つの選択肢があります:
1. 経過観察
 定期的なMRIで腫瘍の大きさや進行を確認します。高齢者や症状が軽い方、腫瘍が小さい場合に選択されます。
2. 手術(腫瘍摘出術)
 特に腫瘍が大きく、脳幹への圧迫やめまい・顔面痛などの症状が強い場合には、摘出が推奨されます。
 通常は耳の後ろを小さく切開する外側後頭下開頭術で行い、顔面神経や聴神経の機能を守るよう慎重に手術を進めます。聴力がすでに低下している場合には、乳突部(耳の奥の骨)を削るアプローチも行います。
3. 放射線治療(ZAP・ガンマナイフ・サイバーナイフ)
 腫瘍の増大を抑えるための非侵襲的治療で、小さい腫瘍や高齢者や手術が難しい方に適しています。ただし、長期的に腫瘍が縮小するとは限らず、症状の進行を完全に防ぐものではありません。

手術後の経過
手術後は多くの場合、神経機能を保ちながら腫瘍を安全に摘出することが可能です。特に被膜を温存する手技を用いることで、顔面神経や蝸牛神経を守る工夫をしています。合併症がなければ、術後1週間程度での退院が可能です。

聴力の異常や長引くふらつき、片側の顔の違和感がある場合は、早めに脳神経外科専門医の診察を受けることをおすすめします。適切な治療によって、生活の質を大きく改善することができます。

他の神経鞘腫

頸静脈孔神経鞘腫(けいじょうみゃくこうしんけいしょうしゅ)

頸静脈孔神経鞘腫は、舌咽神経・迷走神経・副神経などの第9〜11脳神経から発生する良性腫瘍で、頸静脈孔という頭蓋底の深い位置に発生します。症状は声のかすれ(反回神経麻痺)、嚥下障害(飲み込みにくさ)、舌のしびれや味覚異常、肩の筋力低下や首の動かしにくさなど多岐にわたります。腫瘍が錐体骨や後頭骨、側頭骨にまたがって進展することが多く、画像での正確な診断と治療計画が不可欠です。重要な神経が多数走行する部位のため、機能温存を優先した部分摘出+放射線治療の併用が一般的です。頭蓋底外科の専門的な知識と経験が求められます。

三叉神経鞘腫(さんさしんけいしょうしゅ)

三叉神経鞘腫は、顔の感覚を司る第5脳神経(三叉神経)から発生する良性腫瘍で、頭蓋内で発生する神経鞘腫の中でも比較的多く見られます。主な症状は顔のしびれや痛み(三叉神経痛)、顔の感覚低下、噛む力の低下(咀嚼筋の萎縮)などです。腫瘍は中頭蓋窩から後頭蓋窩へ伸びることもあり、腫瘍の大きさや位置により多彩な症状が出現します。重要な血管や脳幹に近接することも多いため、ナビゲーションや神経モニタリングを用いた慎重な手術が必要です。症状の進行がない場合は経過観察、あるいはガンマナイフなどの放射線治療が選択されることもあります。


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