東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座 小関宏和助教、府賀道康講師、石橋敏寛教
授、村山雄一教授、疲労医学講座 近藤一博特任教授、ウイルス学講座 岡直美講師、総
合健診・予防医学センター 伊藤恭子教授らの研究グループは、ストレス関連タンパク質
「SITH-1」の血中抗体価を用いて、未破裂脳動脈溜患者が健常者より有意に高いストレス
状態にあることを世界で初めて客観的・定量的に示しました。脳動脈瘤診療におけるメン
タルケアの重要性を訴える画期的な成果です。
本研究の成果は、Scientific Reports 誌に 2026 年 3 月 24 日付けで掲載されました。
【概要】
背景と課題
慢性的な精神ストレスはさまざまな疾患と関連することが知られていますが、くも膜下出
血の主な原因である脳動脈瘤との関連は長らく不明でした。 これまでのストレス評価は
アンケートなど主観的な手法に頼るしかなく、客観的・定量的に測定できる指標がありま
せんでした。
近年注目されている SITH-1 タンパク質は、精神的ストレスの客観指標として有力視され
ており、 SITH-1 が高い人はうつ病の発症率が低い人の 12 倍に上るという報告もありま
す。 本研究ではこの SITH-1 の血中抗体価と脳動脈瘤との関連を、前向き多施設共同研究
で検証しました。
方法と結果
2021 年 6 月から 2023 年 9 月にかけて、本学附属病院を含む 5 つの医療機関にて破裂性
脳動脈瘤患者、未破裂性脳動脈瘤患者、および健常者を前向きに登録し、血液検体から抗
SITH-1 抗体価を測定しました。破裂脳動脈瘤患者 24 名、未破裂脳動脈瘤患者 26 名、健
常者 23 名の血液検体を解析した結果、未破裂脳動脈瘤群における抗 SITH-1 抗体価は、他
の群と比較して有意に高値でした。また、同群において、脳動脈瘤と診断された時点から
本研究への登録までの期間と抗 SITH-1 抗体価に正の相関が見られました。これらの結果
により以下の知見が得られました。
・未破裂脳動脈瘤患者の抗 SITH-1 抗体価は、破裂患者・健常者と比較して有意に高
く、慢性的な精神ストレス状態にあることが客観的に示された。
・未破裂脳動脈瘤と診断されてからの期間が長いほど SITH-1 抗体価が高く、「診断後の
慢性ストレス蓄積」が大きい。
・慢性的な精神ストレスが脳動脈瘤の破裂に直接的な役割を果たす可能性は低い。
今後への展望
本研究は脳血管疾患で SITH-1 の有用性を示した世界初の報告です。ストレスが動脈瘤の
増大リスクにどの程度関与するかの解明も期待され、 未破裂脳動脈瘤患者に対するメン
タルケアの必要性が強く示唆されます。
さらに、SITH-1 による客観的ストレス定量化は、脳動脈瘤に限らずあらゆる疾患患者の
メンタルケア指標として、 また「ストレスと疾患の相互関係」を探る新たな研究ツール
としての活用が期待されます。
【研究の詳細】
1.背景
慢性的な精神ストレスは様々な疾患と関連があると言われているが、脳動脈瘤との関
連は依然として明らかになっていない。精神的ストレスは質問紙などを用いた主観的
な評価が主体であり、客観的に定量的評価ができる指標は長らく存在しなかった。近
年、SITH-1 というタンパク質が精神的ストレスの指標として有力視されている。そ
こで、本研究では、血清中の抗 SITH-1 抗体価と脳動脈瘤との関連性を検証した。
2.研究方法
2021 年 6 月から 2023 年 9 月にかけて、5 つの医療機関から破裂性脳動脈瘤患者、未
破裂性脳動脈瘤患者、および健常対照群を前向きに登録し、血液検体から抗 SITH-1
抗体価を測定した。主要評価項目は、血清抗 SITH-1 抗体価と脳動脈瘤との関連性と
した。
3.結果・成果
破裂脳動脈瘤患者 24 名、未破裂脳動脈瘤患者 26 名、健常者 23 名が解析対象となっ
た。破裂脳動脈瘤群、未破裂脳動脈瘤群、健常者群それぞれの抗 SITH-1 抗体価の中
央値はそれぞれ 1.32 (四分位範囲 1.07–2.14)、2.39 (四分位範囲 1.68–3.19)、1.39 (四
分位範囲 0.84–1.98)であった。未破裂脳動脈瘤群と破裂脳動脈瘤群の間(p =
0.017)および未破裂脳動脈瘤群と健常者群の間(p = 0.029)には有意差が認められ
た。また、未破裂脳動脈瘤群において、抗 SITH-1 抗体価は、初診から本研究への登
録までの期間と有意な正の相関を示した (相関係数 0.43, p = 0.028)。
本研究により、精神的ストレスのマーカーとして用いられる抗 SITH-1 抗体価は、未
破裂脳動脈瘤患者において有意に高かった。これらの知見は、慢性的な精神的ストレ
スが動脈瘤破裂に決定的な役割を果たす可能性は低いものの、未破裂脳動脈瘤患者と
診断された患者においては有意に高いことが示された。この成果により、診断後の時
間とともに精神的ストレスが蓄積されていく可能性を示唆した。
4.今後の応用、展開
SITH-1 の脳動脈瘤破裂への関連性は示されなかったが、いつ破裂するかわからない
不安を抱える未破裂脳動脈瘤患者におけるストレスが高いことを世界で初めて客観的
指標を用いて示した。本研究を通じてこれらの患者に対するメンタルケアの必要性を
提唱するとともに、破裂のリスクとなる脳動脈瘤の増大に関与する可能性は依然とし
て残っている。今後、コホート研究を行い、精神的ストレスと疾患との関連を明らか
にしていく。
5.脚注、用語説明
脳動脈瘤…脳血管にできるこぶ状の膨らみで、血管の壁が薄くなって破裂するとくも
膜下出血を引き起こす。破裂する前の状態を未破裂脳動脈瘤という。
SITH-1…体内に潜伏感染しているヘルペスウイルス 6B 型由来のタンパク質。精神的
ストレスや慢性疲労などを機に嗅神経に再感染し、SITH-1 を発現するため、精神的
ストレスの指標として有力視されている。
【メンバー】
・東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座 助教 小関 宏和
・東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座 講師 府賀 道康
・東京慈恵会医科大学 ウイルス学講座 講師 岡 直美
・東京慈恵会医科大学 総合健診・予防医学センター 教授 伊藤 恭子
・東京慈恵会医科大学 疲労医学講座 特任教授 近藤 一博
・東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座 教授 石橋 敏寛
・東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座 教授 村山 雄一
【論文情報】
タイトル:Association of Anti-SITH-1 Antibody Titer with Mental Stress and Intracranial
Aneurysms
著者名:Michiyasu Fugaa,b, Hirokazu Kosekia
, Nobuyuki Kobayashic, Toshihiro Ishibashia
,
Azusa Ishiid, Naomi Okad, Tohru Sanoa, Naoki Katoa
, Ken Aokie, Shota Sonodaf, Kyoko Itoc
,
Toshihide Tanakab, Yuzuru Hasegawab, Shogo Kakuf, Minoru Kogikug, Kazuhiro Kondoh
,
and Yuichi Murayamaa
府賀道康、小関宏和、小林伸行、石橋敏寛、石井梓、岡直美、佐野透、加藤直樹、青木
建、園田章太、伊 藤 恭 子 、 田 中 俊 英 、 長 谷 川 譲 、 郭 樟 吾 、 小 菊 実 、 近 藤 一 博 、 村
山 雄 一
a 東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座
b 東京慈恵会医科大学附属柏病院 脳神経外科
c 東京慈恵会医科大学 総合健診・予防医学センター
d 東京慈恵会医科大学 ウイルス学講座
e 東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 脳神経外科
f 脳神経外科東横浜病院 脳神経外科
g 横浜新緑総合病院 脳神経外科
h 東京慈恵会医科大学 疲労医学講座
掲載誌:Scientific Reports
DOI: 10.1038/s41598-026-42027-8