特色ある治療
脳幹海綿状血管腫は、脳幹(中脳・橋・延髄など)に発生する毛細血管が塊状に集まった異常な血管病変で、再出血を繰り返すことで運動麻痺、感覚障害、構音障害、嚥下障害など深刻な神経症状を引き起こすことがあります。
手術治療の目的は、これ以上の出血や神経障害を防ぐために、病変を摘出することです。ただし脳幹は生命維持に関わる極めて重要な構造が密集しており、わずかな損傷でも重篤な後遺症が残る可能性があるため、手術には高度な専門性と慎重な判断が求められます。
近年はナビゲーション、術中モニタリング、顕微鏡・内視鏡技術の進歩により、安全性が向上しています。出血を繰り返している症例や、病変が表面に近く到達可能な位置にある場合は、手術の適応となることがあります。
術後は一時的に神経症状が増悪することもありますが、多くの症例で時間とともに改善が見込まれます。症例に応じて専門医が慎重に判断し、治療方針を提案いたします。
経眉毛アプローチは、眉毛の上を小さく切開して行う低侵襲の脳神経外科手術法です。英語では “Supraorbital Keyhole Approach” と呼ばれ、**前頭葉の底部や視神経周囲、動脈瘤、頭蓋底腫瘍(特に嗅窩部・蝶形骨平面部)**などへのアクセスに適しています。
皮膚切開は眉毛に沿って約3〜4cmと目立たず、審美的にも優れた手術法です。小さな開頭(”keyhole”=鍵穴)から、手術用顕微鏡や内視鏡を駆使して、脳や神経へのダメージを最小限に抑えながら手術を行うのが特徴です。
このアプローチにより、術後の痛みや回復期間が短く、整容性にも優れ、患者さんの生活への影響を軽減することができます。手術の対象となる病変や位置によっては、最適な選択肢となることがありますので、経験豊富な医師による適切な評価が大切です。
経眼窩アプローチは、頭蓋底の深部、特に蝶形骨稜(sphenoid ridge)や側頭葉の内側にある病変に対して施行可能な手術法です。眼窩の一部(眼の奥の骨)一部を外してアプローチすることで、深部の腫瘍や血管病変に対して広い視野を確保しつつ、脳を圧迫せずに到達することができます。
この方法は、頭蓋底腫瘍(髄膜腫、神経鞘腫)、中頭蓋窩や側頭葉内側の海馬・扁桃体などの病変などの限られた病変に使用可能です。
アプローチの工夫により、脳の牽引を最小限に抑えながら安全に病変へ到達できるため、神経機能の温存や合併症の低減にもつながります。手術は頭蓋底手術の経験豊富な脳神経外科医が担当し、ナビゲーションや術中モニタリングなどを活用して安全性を高めます。
小開頭クリッピング手術とは、脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)に対する外科的治療の一つで、従来よりも小さな皮膚切開・骨開口で行う低侵襲手術です。従来の手術に比べて術後の痛みや腫れが少なく、回復も早いという利点があります。
この手術では、頭部の一部を10cm程度切開し、動脈瘤の根元に「クリップ」と呼ばれる金属製の留め具を装着して、破裂や再出血を防ぎます。顕微鏡や外視鏡、内視鏡を使用し、脳や神経に極力負担をかけずに安全に処置が行えるように工夫されています。
くも膜下出血の予防を目的とした手術として非常に有効で、動脈瘤の位置や形状によっては最適な治療法となります。患者さん一人ひとりの状態に合わせて、開頭手術・血管内治療(コイル塞栓術)との選択が行われます。